
Victims Support Scheme ( 被害者等援助制度)
先日発表された今年のAustralian of the Yearは、タスマニア出身のグレイス・テイムさん(26歳)です。テイムさんは高校1年生で15歳の時学校の数学の先生から性的暴力を6か月間にもわたり受けました。当時、タスマニアでは性的暴力被害者が事件について発言することを禁じる法律(sexual-assault victim gag laws)があり、メディアや加害者は事件について公に話すことができても、被害者は実名で自分から話すことが許されていませんでした。テイムさんは自身の辛い経験を背景に、勇気をもってこのような法律の法改正のためのキャンペーン運動と性犯罪の被害者が受けるインパクトについての理解普及・啓発活動への貢献が認められ受賞となりました。
テイムさんのような性犯罪被害者など暴力犯罪の被害者本人や被害者の家族は、被害直後から傷の治療費、精神的ケア、場合によっては引っ越しの必要が出たり、家の鍵を取り換えたり、仕事を休まなくてはならない状況となり収入が減ったりするなどの多種の負担が重なります。
オーストラリアでは、暴力犯罪被害者等の心身の負担軽減や早期回復を援助する制度があります。各州ごとに性犯罪やDV、一般暴行事件などの暴力犯罪被害者とその家族の支援を目的とした制度が設けられています。NSW州ではVictims Support Scheme と呼ばれていますが、ほかの州でもVictims Support Serviceなどの名称で同じような内容の援助制度があります。
今回はNSW州のVictims Support Scheme(被害者等援助制度)を解説します。
Victims Support Schemeとは
NSW州の制度では、犯罪の種類や程度によりますが、下記のような援助を得ることができます。
- Counselling(カウンセリング)
- Financial assistance for immediate needs(緊急給付金)
- Financial assistance for economic loss (経済的損失の給付金)
- Recognition payment (被害者認定給付金)
申請の際、警察にすでに通報してある場合は警察のレポートのコピーを改めて提出する必要はありません。まだ警察に通報していなくても、まず通報してから援助制度を利用することも可能です。また、警察に通報したくない場合であっても、警察以外の政府機関もしくは政府より資金提供を受けている機関に暴力被害について通報してあることを証明できれば申請が可能です。
すべての申請には政府が発行しているID(運転免許証、メディケアカード、パスポートもしくはセンターリンクのカードなど)のコピーを申請用紙に添えて提出することが義務付けされています。IDのコピーが添付されていないと申請が無効になるので注意が必要です。
2019-2020年のNSW法務省のデータによると、6,000人以上の人に合計約2,900万ドルの被害認定給付金が支払われました。同年には4,100万ドル分以上の緊急給付金とカウンセリングの提供があったそうです。緊急給付金の申請についても平均で12日で処理できるよう、前年の平均73日という期間に比べよりスピーディーな申請システムになっているようです。
Counsellingカウンセリング
暴力犯罪被害者本人、被害者本人と近い関係にあり、犯罪を目撃したことなどにより精神的被害を被った人、被害者の家族などが対象です。被害者にもよりますが、一般的に22時時間までのカウンセリングを無料で受けられます。カウンセリングに関しては、被害から何年以内に申請するなどというような期限はありません。カウンセリングのみの申請であれば、こちらの申請用紙をダウンロードするかオンラインで申請することもできます。必要な書類は申請用紙と政府発行のIDのみです。
Financial assistance for immediate needs(緊急給付金)
対象は被害者本人、保護者と家族です。玄関の鍵の付け替え、警報装置設置、引っ越し、犯罪現場の掃除、緊急の医療費などのため最高$5,000までの給付金が払われます。被害により被害者が死亡した場合遺族には、$9,500までの葬儀費用として給付金が支給されます。申請必要書類としては、こちらの申請用紙(カウンセリングや被害者認定給付金の申請も同時にできる用紙です。)遺族用の申請はこちら。
添付書類は、政府発行のID, 警察に通報していない場合は政府機関等の犯罪通報についてのレポート、または犯罪により被害者がどのように影響を受けているかを説明する医師などのレポート等が必要となります。
給付金の申請は犯罪から2年以内という期限がついていますが、未成年者については18歳になってから2年以内という期限になります。
Immediate needs support package – INSP (DV被害者専用緊急支援パッケージ)
安全保護、引っ越し、家賃、家具・器具・衣類・トイレタリーグッズなど11種類のカテゴリーに分かれた費用項目の支援パッケージ合計5,000ドル分までの給付金が支給されます。必要書類は上記の緊急給付金の書類に加え、INSP申請用紙が必要となります。ここのINSP申請にいては、かかった費用のレシート等は必要ありません。 INSPの申請は、上記同様犯罪から2年以内、未成年者については18歳になってから2年以内という期限がついています。
Financial assistance for economic loss(経済的損失の給付金)
対象は被害者本人、保護者・家族です。犯罪の被害により仕事を休まなくてはならなくなった場合は最高$20,000、損失した収入を証明できない場合は、諸経費として$5,000まで、医療費$30,000まで、法律関連費用で$5,000まで、犯罪時に来ていた洋服や持っていた品物の弁償金として$1,500までの支給が認められています。合計の上限は$30,000です。
必要となる提出書類は、IDのコピーのほかに申請用紙、通報レポート、医師などによるレポート、関係費用領収書、関係費用が犯罪にどのように関係しているかの説明、給与明細書などが必要となります。
申請期限は、上記同様犯罪から2年以内、未成年者であれば、18歳になってから2年以内ですが、性暴力を成人前に受けた場合は、諸経費の申請は無期限、収入損失、医療費、私物の弁償金などは18歳になってから2年以内の申請期限が付きます。
Recognition payment (被害者認定給付金)
対象は、被害者本人、保護者・家族です。18歳未満の未成年者もしくは扶養家族が死亡した際は$15,000、殺人事件の被害者の親、保護者もしくはパートナーは$7,500、性暴力被害者(犯罪の程度により)$5,000~15,000、わいせつ行為被害者・暴力を伴う強盗、暴行事件の被害者(重傷でなくても)などは$1,500の給付金が支給されます。
申請には申請用紙、IDのコピー, 警察もしくは政府機関・政府から資金援助を受けている団体からの事件についてのレポートと医師やカウンセラーによるレポートが必要になります。(家族の申請は申請用紙とIDのみ)
申請期限は暴力犯罪後2年以内ですが、死亡者の家族の申請については犯罪による死亡であると認定された日から2年以内となります。他の給付金同様、未成年者は18歳になってから2年以内で、DVや性犯罪や子供の虐待のケースでは暴力犯罪から10年以内という長い期間が認められています。未成年者は18歳になってから10年以内、未成年時に受けた性的虐待の被害者には期限が付きません。
申請準備は入念に
申請する援助により、申請用紙、添付書類、申請期限等が違うのでよく確認して準備することも大切です。
給付金を申請する場合は、申請手続きの日から12か月以内にあとから医師やカウンセラーからのレポートなどを準備して提出することも可能です。経済的損失や被害者認定の給付金の審査は厳しく、事件の内容によっては医師やカウンセラーに暴力犯罪が被害者に与えた怪我や精神的苦痛などのインパクトなどを詳しくCertificate of Injury などのレポートに書いてもらい、暴力犯罪との関係性を十分証明できるようにすることが大切です。このため、提出書類を入念に準備する必要があります。
申請について質問等があれば、それぞれの州の支援制度にヘルプラインがあるので電話やeメールで相談ができます。またケースによっては、申請準備について弁護士に相談してみるとよいかもしれません。