
プライバシー法の改正について
オーストラリアではこれまでプライバシー侵害に対して個人が直接訴訟を起こす手段が法律として明文化されていないことが問題視されてきました。特にオンライン上のプライバシー侵害は急増しており、法律上の規制が強く求められていました。2025年6月10日、the Privacy Act 1988 (Cth) が改正され、重大かつ深刻なプライバシー侵害が不法行為として追加されました。
改正法の内容は以下の通りです。
- 提訴の期限は、被害者がプライバシー侵害に気づいてから12か月以内、またはプライバシー侵害が起きてから3年以内のいずれか早い時期(未成年者の場合、21歳の誕生日までの提訴が必要。特別な事情がある場合には、この期限を6年まで延長することができる。)
- 不法行為の証明には5つの条件を満たす必要がある
- プライバシーの侵害(私生活の侵害または個人情報の不正利用)
- プライバシーに対する合理的な期待が存在すること(年齢や文化背景、また侵害されたとする情報がどの程度公に利用可能であったか、など)
- 侵害行為が故意または無謀であること
- 侵害行為による被害が重大であること
- 個人のプライバシー権が、表現の自由、報道の自由、犯罪防止といった対立する公益を上回っていること。
- 提訴にあたり損害の立証は不要
- 不法行為が認められた場合、多くの救済措置がある
- 差止命令:プライバシーの侵害行為を直ちに停止すること
- 損害賠償:精神的苦痛に対する賠償として、最大478,550ドル、または名誉毀損訴訟において認められる非財産的損害賠償の最高額のいずれか高い方を上限とする。
- その他の命令:公的な謝罪、訂正通知、または重大なプライバシー侵害の宣言などを含む
- 被告の抗弁理由
- 法律や裁判所命令によりプライバシー侵害が必要または許可されている場合;
- 明示的または黙示的に同意が得られている場合;
- 生命、健康または安全に対する脅威を回避するために必要であると被告が合理的に信じた場合;
- プライバシー侵害が人や財産の正当な防衛権行使に付随する場合:
- 名誉毀損の抗弁として公表される場合。
ジャーナリスト、報道機関、州および準州の当局ならびにその職員、情報機関およびその職員、法執行機関およびその職員、未成年者は免責対象となります。
実際にはプライバシーの侵害の程度が深刻であり、また侵害行為が故意または無謀、公益性がないことなどが要件となっており、提訴までのハードルは高いと言えます。
昨年10月には、この法律を使った最初の裁判所判断が示されました(Kurraba Group Pty Ltd & Anor v Williams [2025] NSWDC 396)。
原告は不動産開発会社、Kurraba Group Pty Ltd(以下「Kurraba」)とCEOのスミス氏で、被告が原告企業に対する非難を目的とした専用のウェブサイトを開設、Googleの低評価レビューを行い、公開の集会で原告らに関する誹謗中傷を行う一方、当該行為を中止する見返りとして密かに金銭の支払いを要求するなど、原告らに対する「恐喝キャンペーン」を主導したと主張、被告に対し仮処分命令を請求しました。
裁判所が問題視したのが、被告がスミス氏を道徳的に堕落した人物として描写するために公人でないスミス氏の結婚式の写真を悪意を持って不正に使用・公開した点です。裁判所は被告の行為には公益性はなく、恐喝目的によって動機づけられたものと判断し、その結果、プライバシー侵害(および脅迫・名誉毀損)に関する不法行為について審理すべき争点があると認定、被告に対し、原告に関する文書の公表、また原告に関するウェブサイト、記事、広告、文書をすべて削除するよう命じる差止命令を出しました。
本判決は、法改正によりオンライン上の個人情報公開や画像の悪用に対し救済が可能となったことを証明する重要な判例と言われています。今後も公益と個人のプライバシー侵害とのバランスが、法廷で争われることが想定されます。

