財産分割とそれに関わる税金の注意点
パートナーとの関係が破綻し財産分割を行う際、最も高額な資産は不動産というケースがほとんどです。そのため、不動産を売却して売却益を分割する、或いは一方に名義変更を行う代わりに名義を譲渡する側が現金を受け取る、といった形で財産分割を行う場合が多く見られますが、分割案を検討する際に課税リスクに気付かないことがあります。その結果、公平な分割案をまとめたつもりが、後で一方が高額の税金を支払うことになって不満が残る場合もあるのです。
不動産の譲渡には通常取得の際の印紙税、処分の際のキャピタルゲイン税の支払いが必要となりますが、婚姻関係破綻による不動産の譲渡の場合、優遇措置が存在します。従って共有名義の不動産を一方に譲渡する場合や、単独で保有していた不動産を相手に譲渡する場合、譲渡される側には印紙税は発生しません。
キャピタルゲイン税についてはどうでしょうか。キャピタルゲイン税とは1985年9月20日以降に取得した資産の売却や譲渡に対して課される税金です。対象資産は不動産、株式、アートやジュエリーなどの収集品、1万ドルを超える個人所有物(ボートなど)などですが、自宅不動産や車、$500以下で取得した収集品などは課税対象外となっています。
単純に説明すると、キャピタルゲイン税は資産を処分した場合に発生し、資産の取得コストと売却コストの差額がプラスになった場合、その利益に対して課税されます。12か月以上保有している資産は50%のディスカウントを受けることができます。
財産分割で自宅不動産の権利を譲渡する場合は元々キャピタルゲイン税の対象外ですが、投資用不動産を一方に譲渡する場合には、譲渡する側はロールオーバーリリーフという優遇措置を受けることができます。
つまり、婚姻関係破綻による財産分割を理由として投資物件を一方に譲渡した場合、譲渡時に譲渡する側に発生すべきキャピタルゲイン税の支払い義務はそのまま持ち越され、譲渡された側が将来その資産を処分する際に税を支払うことになります。将来物件を処分する際には、財産分割による譲渡時ではなく、当初の取得コストをコストベースとして税を計算します。
また、現在市場価値が$750,000以上の不動産の譲渡時には、売主が外国居住者の場合キャピタルゲイン税12.5%を決済時に支払う必要があり、買主が源泉徴収してATOに支払うことになりますが、売主が外国居住者でない場合は課税対象外であるという証書をATOから取得する義務があります。この義務についても、不動産取引が婚姻関係の破綻を理由としている場合、免除対象となります。
しかし、上述のような優遇措置を受けるには、法的強制力のある財産分割であることが前提となります。具体的には家庭裁判所からConsent Ordersを取得している、或いはBinding Financial Agreementを締結していることがその条件です。つまり、お互いが別の弁護士を委任し独立したアドバイスを受けた上で、法的拘束力のある書類を作成・署名していることが求められます。こうした書類がない場合、税の優遇措置を受けることはできません。
上記の理由から、不動産や株式などが婚姻資産にある場合、法的に有効な財産分割合意書の作成が不可欠と言えます。同時に、分割案を検討する際には、譲渡された不動産を長期にわたり保有しておくことができるかどうかを考慮することが重要です。もし不動産を受け取っても近い将来処分する可能性が高いことが分かっているのであれば、キャピタルゲイン税の影響を考慮した上で財産分割比率の交渉を行うべきです。そうでなければ、譲渡を受けてからすぐに売却を迫られ高額な税金を支払うことで分割資産が大きく減額してしまうことになってしまいます。これは即ち家族法の基本原則である公平・公正な分配というルールに違反する可能性を残すことになります。 財産分割を行う際には、ご自身の権利を理解し納得できる分割案を決めるため、法律上、税制上のアドバイスを受けることをお勧めいたします。