家族法の改正について
5月6日、家族法の改正法が施行します。現在日本では選択的共同親権の導入が衆議院を通過したことが大きく報じられていますが、今回の法改正では2006年に導入された『平等な共同親責任』という推定原則の廃止が決まりました。
平等な共同親責任原則は、家庭内暴力などの場合を除き、教育、宗教、住む場所、医療といった子供にとって重要な決定を両親が共同で決める責任を負うことが子供にとって最大の利益となるという考え方です。2006年にこの推定原則が導入された背景には、それまで母親が優先され、父親の子供の養育への関与がないがしろにされてきたという声に応える目的がありました。それから過去20年近く、家庭裁判所はこの原則に基づいて養育についての紛争に対応してきました。
今回この原則が廃止されることになった大きな原因は、この原則が誤って理解されてきたケースが多かったからです。元来、子供に関する重要な決定について共同で責任を持つことが子供にとって望ましい、という原則であったはずが、『平等な養育機会』の権利と曲解され乱用される結果を招いていました。具体的にはそれまで子供の養育にあまり関わっていなかった親が、養育費の負担をできるだけ抑えたい、または相手への嫌がらせといった目的を実現する手立てとして、建前上平等な養育機会を要求する形でこの原則を悪用してきたのです。その結果、子供にとって慣れ親しんだ養育環境が突然変わってしまい、子供の生活や精神状態が不安定になってしまうケースがありました。今回はこうした現状を改善するため、推定原則を廃止し、なによりも優先されるべきは子供の利益であるという理念を改めて明確にしようということになりました。この原則廃止を受けて、また2006年以前に逆戻りしてしまうのではという懸念を持つ方もいますが、専門家の間では基本的に裁判所のアプローチはこれまでと変わらないと受け止めています。つまり今後も例外を除き、子供にとって重要な決定は両親が共同で話し合い決定することを奨励すると同時に、今後は現実的でない養育機会を要求する親にはそれが本当に子供の利益になるかどうか、個々のケースごとに厳しく判断されることになります。
さて、子供の利益をどのように判断するか、改正法では6つの要件を挙げています。具体的には、①子供の安全、②子供本人の気持ち、③子供の成長や精神的・感情的・文化的なニーズ、④養育を担う人物が子供のニーズに応えることができるかどうか、⑤両親やその他親族との関係が子供にとって有益であるかどうか、⑥それ以外で子供にとって重要と思われる事実、の6つです。これら6つの要件に優先順位はなく、あくまでも個々のケースでこの中でどの要件が子供にとって最も重要なのか、その結果どのように子供の養育を担うことが適切かを判断します。更に、家庭内暴力についても、現在、または過去の家庭内暴力や虐待、育児放棄の有無も重要な判断要因となることが明文化されました。
また子供の利益を個々のケースで具体的に判断するため、改正法ではIndependent Children’s Lawyer (“ICL”)の役割強化が追加されました。これまで任意であった子供本人との面談について、5歳以上であれば原則的に面談が必須となり、子供の気持ちを本人が表明する機会として利用できることになります。またハーグ条約についての紛争においても、従来裁判所はあくまでも例外的にICLの採用を決定することができましたが、今後はICLを積極的に裁判に関与させることが可能になります。
上述のような改正で、裁判所が子供にとってより良い判断を行うことができるようになると期待されています。