家庭内暴力の加害者への厳罰化について
昨今家庭内暴力が大きな社会問題となっています。家庭内暴力についての社会的な周知が広がったことにより、被害者も声を上げることが増え、警察も被害者に代わって積極的に裁判所への申し立てを行っています。裁判所による暴力行為の禁止や接近禁止命令で問題が解決する場合もある一方、加害者が裁判所の命令に違反して逮捕・起訴という経過を辿る場合もあります。一部の加害者はこうしたリスクがあっても被害者への暴力行為を止めることができず、最終的に被害者を殺害してしまうといった悲しいケースが後を絶ちません。現状の制度では加害者が野放しになっており、被害者保護が不十分であるという批判に対し、各州政府は対策を強化しています。
NSW州は2024年2月1日、the Crimes (Domestic and Personal Violence) Act 2007 に”domestic abuse”の定義を加えました。家庭内暴力とは身体的暴力にとどまらず、言葉の暴力、経済的、性的、精神的暴力など多岐にわたり、こうした暴力行為により相手の行動を制限したり自由を奪ったりする行為であると規定しています。6月には、家庭内暴力の中でも重大な暴力行為に対しての保釈ルールの厳格化を認める法案が両院を通過しました。ここで言う重大な家庭内暴力行為とは、パートナーに対する性暴力、絞殺行為、誘拐拉致行為など刑法上懲役14年以上の罪に該当する暴力行為を指します。従来こうした行為で逮捕された加害者は保釈されることが前提でしたが、改正法ではなぜ保釈されるべきかを加害者側が立証することが求められます。保釈される被疑者はGPS付きの器具の装着義務が追加されることになります。また、7月1日からはパートナーに対して強制的・高圧的・威圧的に相手を支配する行為(Coercive Control)が刑法上の犯罪となりました。該当する行為は多種多様で、繰り返すことで被害者を孤立させたり、自尊心を傷つけたりすることで被害者を支配する行為を指します。重大な家庭内暴力行為やCoercive Controlに該当する行為については、裁判所が保釈を認めた場合でも、検察側が上級裁判所での決定を待つまで保釈しないよう求めることが可能となりました。更に裁判所が保釈を決める際の要件も改正され、過去の暴力や虐待行為、首を絞めたり、ストーキングやペットへの虐待行為なども考慮することができるようになりました。
VIC州では、2024年5月に州政府がIntervention Orderの期間の延長を検討すると発表しました。現在は6か月から12か月の暴力行為禁止命令が一般的ですが、法改正によってこの期間を延長することで被害者が何度も裁判所に申し立てを行う必要がないようにすることが目的です。同時にストーカーに対する法改正案が2025年に提出される予定となっています。また、学校での教育プログラムの導入も始まっており、健全な男らしさとは何か、敬意を持って対等な関係を築くことについて子供たちの理解を深めるためのプログラムを取り入れていく予定です。政府はまた、性暴力被害者のサポートのためにJustice Navigators in Victoriaを設置し、被害者の法的サポート、回復、経済的賠償などがスムーズになされることを目的に財政支援を行うと発表しました。このプログラムには多くの期待が寄せられています。
SA州では暴力禁止命令に違反して暴力行為を行った、または暴力で威嚇行為を行った加害者に対する保釈法が改正され、保釈が認められる場合は、足首にGPS付きの電子機器が装着されることになりました。ACT州も同様の改正法導入を検討しており、全国的に家庭内暴力行為に対する対策が強化されていく予定です。