
別居・離婚時における片親阻害行為について
別居や離婚は当事者同士にとって辛いことですが、子供にとっても悲しい経験です。しかも当事者同士のいがみ合いに何の罪もない子供が巻き込まれてしまうと子供は更に傷つくことになります。親の一方が子供の気持ちを巧みに操ることでもう一方の親に対し敵意や嫌悪感を抱くように仕向け、それまでの親子の関係を壊し、子供の心を傷つけてしまう状態を片親阻害(または切り離し)と言います。
具体的な例として、子供の前で相手の悪口を言う、離婚の原因は相手のせいだと子供に話す、自分と一緒にいない時の相手の行動を報告させる、自分の味方になるよう仕向ける、などの行為が挙げられます。これは子供の気持ちよりも相手への仕返しや恨みといった、自分の感情を優先する行為です。以前は大好きだった親のことを具体的な理由もなく突然嫌いだ、会いたくないと言ったり、大人の口真似をして片親を否定したりする場合、片親が引き離し行為を行っている可能性が高いと判断できます。
どんなに気を付けていたとしても、子供は親の相手に対するほんの僅かな否定的なコメントやそこに含まれるニュアンスを敏感に感じ取ることができます。子供にとっては両親はそれぞれが唯一の存在であり、その存在を否定されることは子供にとって精神的なダメージを植え付けてしまいます。
家族法上も片親阻害は別離後の養育アレンジを決める際に問題となります。子供を相手と切り離すことで相手を傷つけ、自分に有利に交渉を進めたい、という行為は子供の利益を最優先とする家族法上の原則を無視するものです。子供の健全な成長には両親との良好な関係の維持が不可欠であり、どんなに憎い相手だったとしても、子供は自分とは全くの別人格であり、もう一方の親と子供の関係を否定することは子供の権利を踏みにじる行為です。片親阻害は子供への精神的な虐待であり、家庭内暴力であるとも言えます。
片親阻害行為が疑われる場合には、まずは当事者同士や調停での話し合いなどで解決に努めます。それでも解決できない場合には家庭裁判所主体で精神科医やChildren’s lawyerなど専門家の介入を行い、また子供の学校での様子の変化など客観的な証拠を精査することで、子供の変化が片親阻害によるものなのか、それとも別の理由があるのかを判断します。その結果片親阻害が原因と判断されれば、養育環境の変更や子供本人および阻害行為を行っていた親のカウンセリング受講命令が出されたりします。万一片親阻害の影響が深刻で子供の片親に対する嫌悪感があまりにも酷い場合には、壊れてしまった親との関係改善と子供の利益を斟酌し、その中で最善の養育環境について検討することになります。
別居や離婚は子供にとっては住居や学校など環境の変化に加え、生活レベルが変わるなど心身に大きな影響を及ぼします。そのストレスに加え、両親の一方が短絡的かつ自分本位にもう一人の親を否定して子供を精神的に操作し自分の味方に付けようとした結果、子供は片親を失う喪失感、罪悪感を抱えて成長していくだけでなく、それが本人の偏った家族観を形成する要因になるなど子供に長期的な悪影響を与えてしまう可能性があります。きれいごとに聞こえたとしても、元配偶者への否定的な気持ちは自身の中に留めておき、子供の幸せを第一に考えてあげることが親の愛情であり責任であることを忘れてはいけません。