The Fair Work Actの大幅改正について
連邦政府は2023年から既存の法の抜け道を塞ぐとして大幅な雇用法の改正を行っており、今年も次々と新たなルールが施行されることになっています。その中でも特に重要な改正内容について説明します。
2023年6月6日から、従業員が雇用主に対し、フレックス制や、リモートワーク、ジョブシェアリングなど柔軟な働き方を請求できる権利が拡大されました。改正前はこうした働き方を請求できるのは保護者、介護者、55歳以上、障害がある方に限定されていましたが、法改正により家庭内暴力を経験していたり、妊娠している従業員にも同様の権利が認められるようになりました。こうしたアレンジを希望する場合、従業員は書面でその理由とどのような働き方を希望するかを雇用主に提出し、雇用主は21日以内に書面で回答することが求められます。もし雇用主が請求を却下する場合には事前に本人と話し合いを行い、真摯に解決策を探ることが必要です。申請を却下する場合には合理的な理由があることが前提となります。却下に納得できない場合、従業員はFair Work Commissionに申し立てを行うことで解決を図ることが可能で、Fair Work Commissionが最終的な命令を下すことになります。もし雇用主がその命令に違反した場合、取締役または会社は罰金の対象となります。
2023年7月1日からは雇用主の外国人労働者に対する搾取を防止し外国人労働者がFair Workへの訴えを起こしやすくなるようになりました。ビザ違反や働くことができないビザで働いている場合、またたとえ不法滞在者であったとしても、労働者としての権利が明確に保証されることとなり、Fair Workへの訴えと調査への協力、その他のビザキャンセルの理由がなく、今後はビザのルール順守の確約などの条件を満たせば移民局はビザのキャンセルはしない、という方針が導入されました。
また無給育児休暇(Parental Leave)のルールが改正され、更に柔軟な無給育児休暇の取得が可能になりました。無給育児休暇は子供の出生後2年間のうち最大12か月間の取得が可能で(希望すれば更に12か月の延長も可能)、休暇の取得方法として継続的休暇、不定期な休暇を最大100日(以前は最大30日)、またはその両方を合わせた休暇の選択が可能となりました。妊娠している従業員の場合、出産予定日から最長6週間前から育児休暇の取得が可能です。両親が同時に育児休暇を取得することもできるようになりました。なお育児休暇は養子の場合にも適用され、取得可能な期間は子供を養子として受け入れた日から起算されることになります。
2023年12月15日からは家庭内暴力を受けている従業員に対する保護が強化され、企業が解雇などの手続きを取ることが難しくなりました。
2024年2月27日から雇用法違反に対しての罰金刑が強化され、15人以上の労働者を雇用する企業は最大で$469,500の罰金、意図的または無謀な違反の場合は最大でその10倍の$4,695,000の罰金が科されることも可能になりました。
2024年7月1日から外国人労働者を搾取する雇用主への罰則が強化されます。禁固刑の導入と罰金は3倍に増額され、違反が認定されると今後短期滞在ビザ保有者の雇用ができなくなります。
2024年8月26日からカジュアル従業員の定義づけが変更となります。契約書上の区分で決めるのではなく、実際の雇用形態がその判断材料となり、雇用主が定期的な業務を依頼し従業員がその依頼に応える場合、パーマネントスタッフとしての権利が保障されることになります。
また、”Right to Disconnect”が15人以上の従業員を雇用する企業で導入され、従業員は合理的な理由がある場合を除き、業務時間外のメールや電話への応対を拒否することが認められます。1年後の2025年8月26日以降、このルールは小規模事業者にも適用されます。
2025年1月1日から連邦レベルでの未払い賃金に対する罰則が強化され、意図的な賃金未払いに対して刑事罰が導入されます。雇用主個人に対して最大10年の禁固刑、罰金については雇用主個人が未払い賃金額の3倍または156.5万ドルのどちらか多い金額、企業に対しては未払い賃金額の3倍または782.5万ドルのどちらか多い金額が課せられます。この罰則はあくまでも未払い賃金のケースのみで、スーパーアニュエイションやロングサービスリーブなどは対象外です。Fair Work Ombudsmanが未払い賃金に関する調査権限を持つことになります。
また職場の安全・衛生基準についても規制が強化されることが決まっており、2024年7月1日から連邦法のWorkplace Health and Safety Act 2011の対象となる職場での過失致死について新たに刑事罰が導入されることが予定されています。既に同様の州法を導入したVIC州と同じように、個人に対する最長懲役が25年、法人に対する罰金が最大で1,800万ドルが科されることになります。その他の違反についても罰金が大幅に増額される予定です。
上記以外にも多くの改正が行われており、労働者の権利は強化され、雇用主への処罰が厳格化されています。企業は法令順守努力がこれまで以上に求められることとなります。