
在宅勤務などのFlexible Work Arrangementについて
コロナ以降、在宅勤務が一般的になりましたが、最近では週何日か一定のオフィス勤務を求める雇用主が増えてきています。
オーストラリアでは在宅勤務などフレキシブルな勤務形態が法律上一定の条件下で認められています。具体的には、12か月以上継続勤務し、一定の条件を満たす従業員は、雇用主に対し事情に応じた勤務形態を要求することができます(Fair Work Act 2009 の65条)。その条件とは、未就学児や小さい学齢の子供がいる、介護を担っている、障害を持つ、妊婦、55歳以上、家庭内暴力の被害者やその介護者であることです。従業員が勤務形態変更の申請をした場合、雇用主は21日以内に回答することが求められます。希望を認めない場合には、業務上合理的な拒否理由を説明し、従業員と充分な話し合いをすること、その他の選択肢を探し、また許可しないことでその従業員にどんな影響があるかを考慮することが法律上義務付けられています(同65条A)。業務上合理的な理由とは、コストがかかる、他の従業員が対応できない、希望を叶える目的で新しい従業員を雇うことができない、仕事の効率や生産性を著しく損なう可能性がある、カスタマーサービスに重大な悪影響を及ぼす可能性がある、などです。もし希望が認められず、その理由に納得できない場合には、従業員はFair Work Commission(FWC)に判断を仰ぐことができます。
昨年10月、ウエストパック銀行の従業員が子供の養育を理由に在宅勤務を希望したものの許可されなかった決定を争ったケースでは、FWCが従業員の権利を認める判断を下し、大きな話題となりました。一方、今年1月にはPaperCut Softwareが完全な在宅勤務から週3日のオフィス勤務への変更を拒否した従業員を解雇したケースでは、ソフトウエア企業側の主張を認め解雇を有効としました。
この二つはなぜ全く正反対の判断となったのでしょうか。先のウエストパック銀行のケースでは、訴えをおこした従業員は20年以上パートタイムで勤務しており、2018年以降完全な在宅勤務で複数の部下を管理、優良な勤務評価を受けていました。2021年、従業員は子供の学校の近く、元々の勤務地まで2時間かかる遠方に引っ越しました。2024年末、銀行は全ての従業員に対し週2日オフィス勤務を義務付けたため、当該従業員は遠方のオフィスではなく代わりに近くの支店勤務を申請、代理マネージャーにより一旦は認められたものの、2025年1月に正規マネージャーが戻るとその許可が撤回されました。そのため従業員は法律に従い銀行に対し正式な在宅勤務申請を行いましたが、銀行側は法律上の義務である3週間以内の回答を行わず、ようやく3月に申請を拒否し、週2日オフィスで勤務することが業務上必要であると説明しました。当該従業員はその回答を受け、FWCに判断を求めました。従業員側は銀行の指示に従うことができない理由を詳細に証拠と共に説明しました。一方銀行側は期限内の回答義務に違反しただけでなく、充分な説明および合理的な理由についても明確に回答せず、また従業員が受ける不利益などを考慮していなかったとしてFWCは銀行の決定を無効としました。
一方PaperCutのケースでは、2022年4月の採用時には、会社の合理的な指示を遵守するという契約条項を含めた在宅勤務を許容する雇用契約が締結されました。また、勤務地は時と場合により変更する、という規定があったものの、勤務地についての定義はありませんでした。2022年8月、会社側はオフィスと自宅を勤務地とする契約書修正を提案したものの、従業員は合意しませんでした。2023年8月、会社は正式に週3日のオフィス勤務を義務づけ、2025年1月までに目標を達成する、と決定しました。2024年12月、会社は当該従業員に2025年1月から週3日オフィス勤務とすることを伝えたところ、従業員は雇用契約違反であると主張したため、会社は決定に従わない場合には懲戒処分の対象となると告げました。2025年5月20日、会社は当該従業員に対し最終警告を行い、指示に従わない場合解雇もあり得ると通告、6月19日当該従業員は解雇され、従業員はこの解雇決定を不服として申し立てを行いました。それに対し会社は、従業員に対しポリシーの変更に伴い十分な時間を与えており、指示違反は解雇理由となると明確な説明をしたと主張しました。また従業員が正式に会社に対し雇用形態変更申請を行っておらず在宅勤務の必要性についての説明もしていないと主張しました。FWCは会社の主張を認め、会社の行為に違法性はなく、雇用契約自体が従業員に無条件で在宅勤務を許可したものではないとし、解雇に至る手順も適切に行われたとしました。 このように、在宅勤務などフレキシブルな雇用形態を希望する場合、雇用主・従業員とも法律を適切に遵守した対応が求められます。

