オーストラリアでの不動産購入の流れについて
Part I:気に入った物件が見つかってから契約締結まで
オーストラリアの不動産市場の上昇傾向が続いていますが、初めて自宅を購入しようと考えている方も多いのではないでしょうか。不動産エージェントから弁護士を雇うようにと言われても、弁護士に何をしてもらうのかよくわからないというご質問を頻繁に受けます。 今回は、不動産購入の契約締結までについての流れと留意点について解説します。
購入者(買主)の権利と利益を守る弁護士
まず購入者として留意すべき点は、不動産エージェントや銀行などのローンの提供者からのアドバイスは必ずしも買主の利益を考慮したアドバイスとは限らないということです。
不動産エージェントは、あくまでも売主のエージェントであり、売主の依頼によって任務を遂行するため、買主の利益のために行動するわけではありません。また、購入したい物件が見つかり、銀行など金融機関にホームローンを申請することもあるでしょう。貸し出しを行う金融機関は、申請人である購入者の返済能力やその不動産自体の担保価値の審査し、あくまでもローンを出してもその金融機関にとって大丈夫かという視点で動きます。
つまり、買主として最も聞きたい「この物件を買ってもよいだろうか」という点についてのベストアドバイスは、エージェントとローン提供者のどちらからも得られるわけではないということです。
不動産購入において買主の権利を守り、利益を最大化するよう努める義務を持つのはconveyancing(不動産所有権譲渡)を行う弁護士などです。弁護士は、依頼者である買主が「購入」という決定を行うために必要な関連情報を入手し、「買おうとしている家が自分の期待する物件であるか」や「内見だけではわからない問題が存在する物件かどうか」という買主の質問に答えられるよう努めます。このため、頼れる弁護士に不動産購入の法務を依頼することが大切です。
不動産購入の契約締結までの流れ
普通の買い物とは異なり、不動産の購入には書面による契約(contract)が交わされます。売主(vendor)と買主 (purchaser) がそれぞれ契約書に署名し、買主より売主に頭金が支払われた時点で契約締結 (exchange) となります。契約締結前の約束は何の拘束力も待ちませんが、契約締結以降は他方の同意が得られないと契約事項の変更等を行うことはできません。このため買主として契約締結以前にやるべきことは下記のとおりです。
- 物件について必要なレポート(調査書類)を全て入手
- 住宅ローン申請が承認されていることを確認
- 契約書の内容説明を弁護士から受け、売主との特別条件についての交渉を全て完了しておくこと
契約締結時には契約価格の通常10%が頭金 (deposit) として支払われます。エージェントが”SOLD”の看板を物件に掲げるのはこの時点となります。
クーリングオフ期間とは
クーリングオフ期間内であれば、契約締結後でも契約を取り消すことができます。契約締結前に弁護士のアドバイスを受けていない場合は、この期間に弁護士の助言を求め、必要調査やローン手続きの調整などを行うことができます。売主にはこうした権利は与えられませんが、買主がこの期間中に契約をキャンセルする場合は、NSW・ACT・QLD州では契約価格の0.25% (VICでは0.2%)を売主に支払う必要がありますが、頭金の残金は買主に返済されます。
クーリングオフが認められる期間は州により異なります。例えば、NSW・ACT・QLD州では5日間、VIC州では3日間となります。ただし、オークションでの購入の場合、クーリングオフは対象外となるため、基本的に上述の①~③の事項をオークション前に完了しておく必要があります。
不動産市場がヒートアップしている現状下では、強気の売主より即決を迫られる場合も増えているようです。オークションでない通常の売買契約でもクーリングオフ期間無しで契約を要求してくる売主もいます。
契約にサインする前にクーリングオフ期間について確認することが大切です。
Part IIでは、必要調査や決済までについての注意事項について解説します。
本記事は法律情報の提供を目的として作成されており、法律アドバイスとして利用されるためのものではありません。